【米国株投資】ADRって何?仕組みを詳しく解説!
どうもTatsuoです。
前回の記事:【二重課税と租税条約】外国株式に投資する際に考慮すべき課税制度について でADRについて少し触れましたが、本記事ではそのADRの仕組みや課税方式について詳しく解説します。
ADRとは
米国株への投資を考えている方、特に高配当株式への投資を考えている方は、ADRという言葉を耳にしたことがあると思います。
ADRとは、American Depository Receiptの略で、日本語では米国預託証券と呼ばれています。
米国は、米国市場を意味します。
預託というのは、株式などの有価証券を預ける行為のことです。
預託証券(Depository Receipt)というのは、企業が自国で発行する株式等を、自国以外の国の市場で株式に代わり流通させる証券のことです。
つまり、ADRとは、米国以外の国の企業が発行した株式を担保として、米国で発行される預託証券のことを指します。
ADRが発行されるまで
例えば、英国株式のADRは、以下のように発行されます。
そのA社の株を、英国内の銀行が購入し、米国内の市場で取扱える”預託証券(預かり証)”を発行します。
預託証券は米国市場に上場され、取引されます。
このように、預託証券を市場に流通させることで、あたかもA社が米国に上場している企業であるかのように米国で取引できるようにする仕組みが、ADRというものです。
ちなみに、香港市場で発行されるHDR、日本市場で発行されるJDRという物もあります。
預託銀行
諸外国で企業の株券を購入し、米国で預託証券を発行する銀行は、預託銀行と呼ばれます。
預託銀行業務を担える銀行は数少なく、現在、預託銀行業務を行っているのは、JP Morgan Chase、Bank of New York Mellon、Citi Bank、Deutsche Bankといった、名だたる世界的銀行に限られています。
現株式と対原株比率
企業が籍を置く国の現地銀行が所有する株式のことを現株式といいます。
預託銀行はADRを米国市場に上場する際、1つのADRを1つの原株式の裏付けとして上場することもできますし、1つのADRを複数の現株式の裏付けとして上場することもできます。
この比率のことを対原株比率といいます。
なお、企業の配当金の開示では、1株当たりの配当金が記載されることが一般的です。
BPのADRの場合、1ADRの配当金は6株分ということになります。
投資家目線で考えるADRのメリット
投資家目線でのADRのメリットには、以下の3点が挙げられます。
- 投資規制がある国の銘柄に投資できる
- 米国ドルでの取引が可能
- 米国の配当金課税対象とならない
1. 投資規制がある国の銘柄に投資できる
例えば、インドのような国では、非居住者がその国の株式へ投資することは規制により制限されています。
ところが、ADRであれば、株式の所有者は預託銀行となるため、そのような規制に抵触せず、投資家は、米国市場にて投資をすることができます。
2. 米国ドルでの取引が可能
株式市場での取引は、通常は現地通貨で行われるため、買いたい企業の居住国の現地通貨を保有する必要が出てきます。
ただ、インドルピーやブラジルレアルなど、あまり使用予定のない通貨は保有したくないですよね。
一方、ADRであれば、預託銀行が現地通貨から米国ドルに変換したうえで上場するため、米国ドルでの取引が可能になります。
配当金も同様で、ADRに投資した場合、配当金は米国ドルで受け取ることができます。
これは、投資家にとって一番ありがたい仕組みではないでしょうか。
3. 米国の配当金課税対象とならない
原株式は現地預託銀行が所有しており、配当金も現地預託銀行に支払われます。
従って、配当金については現地国の課税対象となり、米国では課税対象になりません。
英国では配当金は非課税であるため、投資家は100円の配当金を受け取ることができます。
投資家の居住国が日本の場合なら、その配当金に20.315%が課税されて、手取りは80円ほどになります。
もし米国株に投資すると、日本の居住者であれば、配当金には米国において10%の軽減税率が適用され、そのあとさらに20.315%が課税されますので、実質の税率は10% + (1-10%)*20.315% = 28.2835%となります。
英国株のADRならば、配当金の税率は0% + (1-0%)*20.315% = 20.315%ですので、配当金に対して納める税率が約8%も変わってくることになります。
配当目的で投資をしている方は、税率の低い国の高配当銘柄のADRへの投資がおすすめです。
投資家目線で考えるADRの注意点
投資家目線で考えられる、ADRの注意点には、以下の4点が挙げられます。
- 厳密には株式ではない
- 租税条約の適用が(ほぼ)不可能
- 原株式とADRの株価は若干乖離する
- ADRには預託銀行の管理費用が掛かる
1. 厳密には株式ではない
最初にADRの仕組みを図で解説した通り、ADRは預託銀行が保有する株式を裏付けとして発行された預かり証であり、実際の株式(原株式)そのものではありません。
ただ、ADRは原株式から生じる権利のすべてを含むため実質株式を保有するのと同じですので、実務上の影響はほとんどないと言って差し支えないでしょう。
2. 租税条約の適用が(ほぼ)不可能
配当金は、現株式を保有している現地の預託銀行に支払われます。
従って、配当金支払いは現地の課税制度に従うこととなります。
本来であれば、投資先企業の居住国と投資家の居住する国の間の租税条約が、現地の税制度に優先されるのですが、ADRでは、原株式の所有者が投資先企業の居住国にある預託銀行であるため、租税条約が適用されません。
そのため、租税条約の税率を適用を希望する場合には、還付申請を自ら行う必要が生じます。
この場合、Royal Dutch Shellは、株式を保有しているオランダの預託銀行に配当金を支払います。
オランダの配当金の税率は15%なので、15%が適用されます。
ADRは米国の課税はありませんので、日本に来るときには配当金は本来の額の85%となっています。
日本はオランダと日蘭租税条約を結んでおり、配当の制限税率は10%とされています。
本来であれば、この10%の税率が適用されて然るべきなのですが、その制限税率の適用を訴えるのは、実務上ほぼ不可能です。
理論上、日本の居住者証明をオランダの預託銀行に通知し、現地預託銀行から現地の国税庁に提出してもらえればできなくはないはずです。
しかし、ADRの仕組み上、それを実行するには自分の取引き証券会社に預託銀行と連携してもらう必要があるため、ほぼ不可能だと思われます。
残された手段は、オランダ当局に対し還付申請を行うことですが、その労力を考えると、潔くあきらめたほうが良い気がします。
3. 原株式とADRの株価は若干乖離する
ADRは原株式を裏付けとして発行されますので、ADRの価格は株価にほぼ連動します。
しかし、為替や、現地国の税制(例えば、英国はADRに1.5%の印紙税が課される)の影響で、実際には株価とADRの価格は若干乖離します。
ただ、現地国に直接する際の為替リスク等を考慮すると許容の範囲かと思います。
4. ADRには預託銀行の管理費用が掛かる
預託銀行は、現地で株を買い入れたり、預託証券を発行するなど、多くの業務を請け負っています。
そのため、預託銀行はADR保有者から一定期間ごとに管理費用を徴収しています。
ADR費用は、個別に徴収される形式や、配当金支払いの際に控除される形式があります。
価格は銘柄ごとに違いますが、一般に1株当たりUSD 0.01 – 0.05程度です。
各銘柄のADR費用は以下の預託銀行のサイトで調べることができます。
例えば、BPであればADR費用として、配当支払いの際1株当たりUSD 0.005が徴収されます。
BPの配当は四半期でありますので、年間でUSD 0.02ということになります。
当然、ADR費用の分だけ利回りは低くなりますので、利回りを計算する際には注が必要です。
まとめ
ADRの仕組み、メリットと注意すべき点について解説してきました。
ADRは投資家にとって非常に有益な仕組みです。
繰り返しになりますが、米国への投資を検討している方で、配当を重視したい方は、イギリスなど、源泉徴収税率の低い国のADRを探してみると良いと思います。
米国市場への投資を考える際の参考になればうれしいです!
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