【二重課税と租税条約】外国株式に投資する際に考慮すべき課税制度について
どうもTatsuoです。
昨今の米国株の上昇を受けて、これを機に外国の株式への投資を始めよう、と考えている人が増えているかと思いますが、外国株式に投資する際は、源泉課税に注意が必要です。
なぜなら、源泉課税のせいで、想定よりも低い利回りとなってしまうことがあるからです。
特に配当金については、現地での源泉課税と日本での課税によるの二重課税に注意する必要があります。
本記事では、二重課税の概要と、主な外国の配当金に対する源泉徴収についてまとめました。
租税条約と二重課税
租税条約とは、国家間の資金移動に伴って生じる二重課税を回避する目的で、二国間で締結される国際条約のことです。
二重課税とは、配当所得などの課税原因に対して、同種の租税が二回以上課されることを指します。
ケーススタディ:日本と米国の場合
米国所在企業の株式に日本居住者が投資したとします。この場合、日本居住者が受け取る配当金にはどのように課税されるでしょうか。
まず、米国では、配当について30%の源泉課税がなされます。
一方、日本では、配当所得については、20.315%(所得税15.315%、住民税5%; 分離課税の場合)の課税がなされます。
つまり、米国で発生した配当金を日本に居住する者が受け取る場合、配当金に対して、米国内で30%の課税がなされ、さらに日本国内で20.315%の課税がなされることになります。
このように、同じ課税原因(配当所得)について、米国と日本で二重に課税がなされる状況を、二重課税といいます。
さらに、日本国内では70円の配当所得に対して20.315%の課税がなされますので、14円(≒70円×20.315%)徴収され、手取りは56円となります。
日本と米国間では、このような二重課税を軽減するため、租税条約が締結されています。
日米租税条約により、米国所在企業の株式の配当を日本居住者が受け取る場合には、米国内の源泉徴収税率は10%となっています。
そして日本側では残りの90円について、20.315%の課税がなされ、18円(≒90円×20.315%)が差し引かれます。
その結果、手取りは72円となります。
諸外国の配当金への源泉徴収税率
2021年1月時点での、主な諸外国の配当金に対する源泉徴収税率は以下のとおりです。
企業の税法上の居住国 | 源泉徴収税率 |
米国 | 10% |
イギリス | 0% |
シンガポール | 0% |
マレーシア | 25% | タイ | 10% | ベトナム | 0% |
これらの源泉徴収税率は、どの国の市場かではなく、投資する企業の税法上の居住国によって決まります。
米国市場のADR(American Depository Receipt)を例にとってみましょう。
ADRとは、簡単に言うと、米国市場で他国に籍を置く企業に投資ができるシステムのことです。詳しくは別の記事で解説します。
ADRとして取引されているロイヤルダッチシェルという企業は、オランダ法人(RDSA、オランダに上場)とイギリス法人(RDSB、ロンドンに上場)に分かれており、それぞれの法人が属する国の源泉徴収税率が適用されます。
日本居住者がそれぞれに投資する場合、
- RDSAに投資した場合:オランダ法人の株式のADRのため、オランダの源泉徴収税率15%が適用。
- RDSBに投資した場合:イギリス法人の株式のADRのため、イギリスの源泉徴収税率0%が適用。
となります。
二重課税を軽減する方法
租税条約があるとはいえ、二重課税によって配当所得が目減りするのは避けられない問題です。
このような目減りを軽減するためには、以下のような対策が考えられます。
- 外国税額控除を受ける
- 英国株のADRなど、源泉課税税率の低い国の株式に投資する
1. 外国税額控除を受ける
日本には外国税額控除という制度があります。
確定申告をすることで、(上限はあるものの)一部の外国で納税した税金を、日本の所得税・住民税から控除することができる制度です。
外国税額控除の仕組みは少々複雑なので、別の記事にて解説します。
なお、外国税額控除の難点は、
- 外国で納めた税金を全額控除することはほぼ不可能(二重課税による目減りは0にはできない)
- 住宅ローン控除などによって所得税が生じていない方は、そもそも控除するものがないので意味がない
という点です。
2. 英国所在企業のADRなど、源泉徴収税率の低い国の株式に投資する
これは、英国など源泉徴収税率の低い国の株で、投資したいと思える銘柄がある方にとっては最も実用的な対策です。
英国所在企業のADRであれば、英国の源泉徴収税率0%が適用されるため、日本に来る配当は目減りせず、日本国内においてのみ、20.315%の税金がかかります。
英国所在企業のADRには、GlaxsoSmithKline、British American Tobacco、BPといった高配当銘柄もありますので、配当重視の投資をされる方は検討する価値があると思います。
外国企業への投資から得られる配当所得であっても二重課税にはならず、日本の株式に投資するときと同じ税率になるというのは魅力的ですよね。
また、NISA口座を活用すれば、日本での配当・譲渡益に対する課税も非課税となりますので、実質配当には課税されないことになります。お得ですね。
少しでも源泉徴収税率を抑えるために、投資先企業の税法上の居住国を確認しましょう!
まとめ
外国株式に投資する際に注意すべき、二重課税について解説してきました。
あらかじめ二重課税を考慮しておくことで、利回りが思ったより低かった、という事態を避けることができるので、ぜひ頭の片隅に入れておいてくださいね。
本記事で出てきたADRと外国税額控除については、別途記事を作成中ですので、少しお待ちください。
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